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中高生がハマる昭和歌謡の変遷と女性の社会進出

中高生に昭和歌謡が大人気?

最近、昭和歌謡にハマる中高生が増えているという。

「NHKのど自慢」でも、吉田拓郎の「落陽」(1973年)や、近藤真彦の「ギンギラギンにさりげなく」(1981年)などを高校生が熱唱。ザ・ピーナッツの「恋のフーガ」(1967年)を歌う女子中学生のユニットも登場した。

【参照】「のど自慢」でも顕著 なぜ中高生に昭和歌謡が人気なのか(NEWSポストより)

この話題、1月7日の「ワイドナショー」(フジテレビ系)でも取り上げられていたが、武田鉄矢が興味深いコメントをしていた。

つまり、「昔は自虐的な歌が多かったが、80年代くらいから自分に対する応援ソングが増えてきた」というものだ。

自虐ソングというのは、演歌でよく歌われた「私バカよね。おバカ参与ね」(細川たかし「心のこり」1975年)のように、自分を「バカ」と言う類いの歌だ。確かに昭和の時代には、自虐的な歌が多かった。直哉に自分を「バカ」と言わなくても、都はるみの「北の宿から」(着てはもらえぬセーターを、寒さこらえて編んでます)のような自虐的表現の歌がほんとうに多かった。

さくらと一郎の「昭和枯れすすき」(1974年)などという、アーティス名も曲のタイトルも、いかにも「昭和」な楽曲など出だしから

「貧しさに負けた」(男)
「いいえ、世間に負けた」(女)
「この街も追われた「(男)
「いっそきれいに死のうか」(女)

と歌われ、人生の敗北感マックスな歌だった。

昭和の時代には、このような人生の敗北を歌った歌も多かったが、武田鉄矢によれば、それが80年代後半くらいから自虐ソングがなくなり、「自分、頑張れ!」という自分に対する応援ソングが出てきた。その象徴的な歌がKANの「愛は勝つ」で、90年代以降、応援ソングが主流になったという。

そうなった理由として、前述のワイドナショーでは泉谷しげるが

60~70年代は高度経済成長期にありながら自嘲ソングが多く、それは時代に存在した「余裕」であり、当時は「毒を吐く時代」だったと持論を展開。逆に、80年代は厳しい時代になってきたことから、応援するような歌が増えてきたのではないか

https://www.j-cast.com/2018/01/07318119.html?p=all

と論じている。

ただ、僕はこの説にはちょっと疑問だ。そうではなくて、80年代後半に自虐ソングがなくなり、応援ソングが主流になった背景には、女性の社会進出が大きな要因になっていると思う。

女性の社会進出と自虐ソングの衰退。そして応援ソングへ。

昭和の自虐ソングとは、基本的に女性が自分の不幸を歌う歌だ。男に捨てられたり、振り向いてくれない男をずっと好きだったりという自分を、女性が自虐的に歌う歌だ。

前述の細川たかし「心のこり」もそうだし、武田鉄矢がワイドナショーで自虐ソングの一例として挙げた藤圭子の「新宿の女」でも「わたしが男になれたら、私は女を捨てないわ」 と歌い出し、さびでは「バカだな、バカだな。だまされちゃって」と歌う。

このように、女性がだまされ、捨てられ、あるいは、好きだった男をずっと思い続ける。それが昭和の自虐ソングの基本であり主流だった。そこで描かれた女性像とはつまり「男にとって都合の良い女」である。

つまり、昭和の自虐ソングとは、男にとって都合の良い女性を求める、男の妄想ソングで、なぜ、そのような歌が多かったかというと、自虐ソングのほとんどは演歌で、演歌マーケットの主な顧客は男だったからだと思う。

実際、たとえば昭和の時代に若い女性を熱狂させたグループ・サウンズでは、このような自虐ソングは存在しない。グループ・サウンズで主流だったのは、白馬の王子様がやってくるとか、命をかけて女性に愛を誓う男の告白みたいな歌ばかりだ。たとえば、グループ・サウンズで最も高い人気を誇ったザ・タイガースは、このように歌う。

君だけに、君だけに
教えよう 不思議な
僕の胸のつぶやきを

君だけは、君だけは
はなさない
手をつなぎ ふたりでかける
夢の世界へ

ザ・タイガース「君だけに愛を」

また、ザ・タイガースと人気を二分したザ・テンプターズもこのように歌う。

腕に傷をつけて 腕と腕を重ね
若い愛の血潮 わかち合った恋は
誰も 誰も こわせはしない

ザ・テンプターズ「純愛」

グループ・サウンズは完全に女性ターゲットの音楽ジャンルであり、そのようなジャンルでは(女性の)自虐ソングはなかったのである。やはり自虐ソングは、男の妄想ソングだったと言える。

昭和の時代に(女性の)自虐ソングが多かったのは、女性は男の都合に合わせて生きるしかなかった時代だったからで、80年代後半から自虐ソングがなくなり、応援ソングが増えたのは、その時代に女性の社会進出が始まったからだ。

男女雇用均等法と自虐ソングの衰退

日本でも欧米でも80年代後半から女性の社会進出が活発になる。日本では86年に男女雇用均等法が施行された。また、この時代に日本はバブルに突入したが、あの頃は「若くてキレイな女性は最強」と言われた時代でもある。企業でも女性の感性を活かせと言われたし、女性マーケットも拡大した。クルマもファッションもスキーもディスコも、女子受けしなければ売れなかった。

そういえば、バブル世代の女性は当時、KANの「愛は勝つ」が大好きで、カラオケでもさんざん歌っていた。

80年代はまた「自立する女性」がカッコいいとされた時代で、その流れは今に続く。

そして、自立に目覚めた女性は、男の都合で耐え忍んだりしないし、そうやすやすと男にだまされて泣いたりはしない。ホスト狂いのメンヘラ風俗嬢だって、担当は嘘ばかりついていることが分かった上でホストにはまっているし、担当の本カノになって結婚することを夢みながらも、それはけっしてかなわぬ夢であることを自覚している。男に貢ぐにしても、昔と違ってもっと自覚的なのだ。

今の時代に自虐ソングがなくなったのは、そのような女性の意識の変化が要因だろう。

ちなみに、90年代以降、自虐ソングがまったくなくなったかというとそうでもない。代表例は浜崎あゆみだ。ただ、そこで歌われる「自虐」は、昭和歌謡の自虐とは異質なものだ。

「居場所がなかった」(a sonf for XX)に代表されるように、浜崎あゆみの歌は、現代社会での生きづらさを歌った歌で、男への未練や男のせいで不幸になった自分を嘆く昭和の自虐ソングとはまったく違う。

居場所がないと歌うのは、居場所を求める気落ちがあるからで、その意味では浜崎あゆみもまた、自立への希求をネガティブな側面から歌ったもので、応援ソングと表裏一体だ。

というわけで、自虐ソングが消え去り、応援ソングが増えたのは、女性の社会進出という視点から言えばよいことだ。着てもらえないことが分かっているセーターを、寒さをこらえて編むような女性もいなくなったし、そのような女性を求める男性も少なくなったと思う。喜ばしいことだ。

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竹井善昭

CSRコンサルタント、マーケティング・コンサルタント、メディア・プロデューサー。一般社団法人日本女子力推進事業団(ガール・パワー)プロデューサー。

ダイヤモンド・オンラインにて「社会貢献でメシを食うNEXT」連載中。
http://diamond.jp/category/s-social_consumer
◇著書◇「社会貢献でメシを食う」「ジャパニーズ・スピリッツの開国力」(共にダイヤモンド社)。 ◇翻訳書◇「最高の自分が見つかる授業」(Dr.ジョン・ディマティーニ著、フォレスト出版刊)

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